ピアノ愛好家 ご夫妻で

Q.なぜ当社に調律を依頼されたのですか?

A.
ご主人:ピアノを直してもらえるところにお願いしたかった。下のG3レーモンドモデルの方は鍵盤が重かったので、近い将来、誰かに直してもらいたいと思っていた。で、さいたまピアノ工房のHPを見たら、「構造から変えます」と書いてあったので気になって連絡しました。

奥様:調律以外の(修理などの)仕事をお願い出来るところを探していました。出来れば場所が近いところがいいし、「ただ調律やります」じゃなくて、トータルで、例えば何か直すとか、いろんなことをやってくれそうな人っていうので探して。

ご主人:シュベスターにグランフィールをつけたい、と思っていました。で、付けられる人を探していましたが、最初は「グランフィールを付けられます」とアピールされている方にお願いしていました。グランフィールをつけたらシュベスターの音が変わったんですよ。ほんのり柔らかい音から、少しきれいで済んだ音に変わりました。

奥様:でもその技術者さんは少し場所が遠かったことと、あまり会話が出来なかったんですよ。それでもう少し調律師を探してみよう、となりました。グランフィールに拘らず色々ピアノを直してくれそうな人を。

ご主人:蓋を傷つけられちゃってね。上前板をはめようとしたときに落としたんだと思う。

奥様:レーモンドの方は鍵盤が重いと調律師に伝えていましたが、あまり直そうとしてくれませんでした。「もうちょっと様子見てください」とか「じきに軽くなるかもしれません」とか言われました。なんかあまり作業はしてくれなかった。
それでさいたまピアノ工房さんのHPを見て、お願いすることにしました。それでまずはシュベスターを見てもらおうということになり、来てくれたのが真帆ちゃんでした。
ペダルがギーギーいっていたので、その調整をお願いしました。最初はスプレーとかで対処をしていましたがなかなか治らなかったのですが、気が付いたら真帆ちゃんがパーツを小刀で削り始めていたから「お~、すごいな」と思って(笑)

補足:後日、タッチの重いG3(レーモンドモデル)の改善のご依頼を受けました。奥様が腱鞘炎になってしまうほどタッチが重く、ピアノを正確に診断したところ、全ての鍵盤のダウンウェイト(鍵盤を降ろすときの重さ)が70g以上でした。メーカーによって違いはありますが、通常は約50g程度です。しばらく弾いても軽くなるという状態ではありませんでした。後日アクションを持ち帰り、ウェイト調整作業をし、弾きやすくなり大変喜んでいただけました。ちなみに構造(てこ比など)を変える必要は全くありませんでした。
このG3は既にオーバーホール作業をされていました。タッチが重かった理由は、少々重めのハンマーに交換されていたためです。ハンマーを交換したらウェイト調整は必ずすべきと当社では考えています。

斎藤(当社調律師):雑音がならない位置にペダルをセットしたら、逆に木と木がぶつかって雑音がしていたので、その部分を削りました。
奥様:なんかすごく頑張ってやってくれたので、このままずっとお願いしましょう、ということになりました。私たちとしては「調律」だけではなくて、ピアノ全体を「トータル」で見てくれる人を探していました。
ご主人:(今のピアノは)最初から中古を買うつもりでピアノを買ったので、買うんだったら「無垢」までとは言わないけど、ボンドで固めたようなピアノの音は嫌だなと。

渡邉(当社調律師):ご主人はオーディオについて詳しいので、ハコの良し悪しはすぐに気が付きますしね。

奥様:でも旦那がここまでピアノに詳しくなったのは、グランド(ヤマハG3)を買ってからなんですよ。GPを買ってから、「ピアノってこんなにすごい音がするんだ」と。それから独学で調べて、ピアノの構造とかは私より詳しくなってまいす。

ご主人:あれを買ってから、「ピアノとヨーヨーマは同じ音なんだな」と思ったんですよ。ヨーヨーマのベスト盤を買って聴いたら「あ、これシュベスターと同じ音じゃん」と。

奥様:耳は本当に旦那のほうが良いんですよ。

渡邉(当社調律師):オーディオに詳しい方の耳はとても肥えてると思います。

奥様:私なんかは、(自宅にある)2つのステレオ、どちらで聞いても「あー良いな」と思うんですけど、主人はこだわりがあるようで、

ご主人:イージーリスニングで聴く方と、真剣に聴く方とで切り替えていますね。背の高い方は、ウイスキー樽で作ってあるんですけど、音がほんわりしてるんですよ。もともとウイスキー樽として使っていた木をそのままオーディオにしたものです。エンクロージャーとして剛性が高いので、いい音になっています。

Q.奥様とピアノとの出会いはどのようなものですか?

A.
奥様:子供の時6歳のころに習い始めました。その頃はアポロのアップライトを母が買ってきてくれて、それからです。なんかモヤがかかったようなピアノの音でした。レッスンに行くとヤマハが置いてあって、それはシャキンシャキンとした音がするものでした。その後音大に行くことを決めたときに、当時の調律師さんに相談してUX50(ヤマハ)に買い換えました。実家はグランドを置けるスペースがなかったので、せめてUPで一番グランドに近いもの、ということで、調律師さんから勧められました。

ご主人:私は子供のころ姉が習っていて、ピアノはエテルナだったかな。ただ、自分は未だに弾かないですから。音を聴く専門です。

奥様:だから、ピアノにはあんまり興味がなかったよね。G3を買ってからだよね、ピアノに急に目覚めたのは。

ご主人:あれは衝撃でしたね。他のピアノが「べた~」とした音なのに、あのピアノだけ「ピョンピョンピョン」と星が出てくるような、音符が飛び出てくるような感じでした。

奥様:たしかに最初弾いた時、弾きやすくはなかったです。でもでもどうせ私しか使わないし、趣味で使う分には多少弾きにくくても音が良いものがよかった。UX50みたいに、弾いた後に「あー耳が疲れたな」とかなるのは嫌だな、という思いがあって。やっぱり、聞こえる音が楽しくなきゃつまらないかな、と思っていました。

渡邉(当社調律師):今生活の中でピアノはどんな存在ですか?
奥様:なくてはならないものです。去年がんになってしまって手術して抗がん剤で髪の毛が抜けてしまって。抗がん剤やっているときって副作用で指先にしびれが出たりするんです。それで一時弾けなくなってしまいました。指先がジーンジーンとして。副作用が強くて寝たり起きたりの生活だから、去年はあまりピアノが弾けませんでした。今は弾けるようになって普通に生活できるようになったから、ピアノを弾くのが楽しくてしょうがない。

奥様:抗がん剤は去年11月頭ぐらいに終わり、経過観察になったころ、ピアノの方も色々見てもらおうということになって、真帆ちゃんに来てもらいました。最初さいたまピアノ工房さんに電話をかけたら、全く営業に向いてないような女性(斎藤)が電話にでたから、ちょっと大丈夫かな~と思って(笑)

斎藤(当社調律師):前より少しマシになりました(笑)

Q.どんな曲を演奏されますか?

A.
奥様:基本的にはクラシックですね。手が小さいので、リストの大曲とかは弾けないです。今はバッハとかショパンとかが好きで弾いています。基本的にはクラシックを弾いています。
クラシックと言ってもバッハとショパンは違いますが、私はバッハが好きです。バッハが心に染みますね。昔は「なんて地味な音楽なんだろう」と思っていました。昔はショパンの英雄ポロネーズ弾きたいとか、革命弾きたい、とか思っていたけれど。
ご主人:真帆ちゃんの調律が、バロックにあっているのかもしれないね。

奥様:最近ピアノ弾いていて、ピアノは弦楽器なんだな、ていうのがよく分かるようになりました。弦が響いているんだな、ていうのが分かると楽しいですね。「いま弦を響かせてる」というのが分かります。1Fのあの部屋で(シュベスターを)弾いていると、ずっと弾いていたくなります。ピアノは今欠かせない存在です。
それで調子に乗ってヤマハのグレードとか受けまして、上級3をヤマハの本部まで試験を受けにいきました。ヤマハのCFXが置いてあって、それを弾きたいがために受けにいって合格しました。

一同:素晴らしい!

奥様:それで今度はベヒシュタインを弾くのが目的で、入間の武蔵ホールにベヒシュタインのフルコンサートを弾きに行きます。今度そこでコンクールの予選があるので、よしこれは行くしかない、と思って申し込んだんですよ。そのコンクールが1月にあります。武蔵ホールのHPには「音が降り注いでくる」と書いてあったので、よし、降り注いで来い、と(笑)
本選は五反田の文化センターでスタインウェイのフルコンが設置されていますけど、まあそこに行けるかは分からないです。とにかくベヒシュタインのフルコンが弾けるという理由だけでコンクールの予選に応募してしまいました(笑)

Q.ヤマハのCFXはどうでした?

A.
奥様:思っていたより、弾いている本人にはあまり響かなくて。。場所はヤマハのビルに入っている一つの部屋で、そんなに広い部屋ではないです。弾きやすかったけれど、音が自分に来ないな、と感じました。

ご主人:下手な人が弾くとやっぱり音が良くないですね。最後に大学教授が弾いていましたけど、いい音は出していなかったです。すごく激しく弾いていただけで。
奥様:思ったほど感動するものではなかった。

渡邉(当社調律師):結構下のピアノも(G3レーモンド)、弾く人によって汚い音も出てしまいます。ヤマハのCFXは狭い部屋に置いてあったということなので、きつい音が出ないように調整してたのかもしれません。普段はコンサートホールのような大きなところに置いてあるピアノですからね。

奥様:それが一つのビルの3回の空間にありましたからね。

渡邊(当社調律師):汐留にベヒシュタインのフルコンがあり、100人ぐらいしか入らないところに設置されているんですけど、現場(汐留ベヒシュタインサロン)の技術者に聞くと、ガンガン弾くピアニストの演奏だとうるさく鳴ってしまうため、相当抑えた音を作るようです。ただそうするとメリハリが付きにくいピアノにはなってしまいますね。

奥様:CFXも100人くらいの部屋でしたから、同じ事情かもしれないですね。

Q.ピアノ以外に楽しんでいることは?

A.
奥様:鳥ちゃんとの癒しかな。でも今は生活の中でかなりピアノが占めていますね。

Q.:今までずっとピアノの先生をされていましたか?

A.
奥様:大学の時から楽器店の音楽教室でピアノの先生をやっていて、卒業してからもそこで続けていました。そしてプラスαで自宅でも教室を始めました。

ご主人:私は公務員をやっていました。すぐにでも辞めたいと思っていましたけど(笑)

Q.ピアノ技術者に対してどのようなことを期待していますか?

A.
ご主人:そのピアノの実力を発揮させてくれる技術ですね。

奥様:通り一辺倒の調律じゃなくて、このピアノはもっとポテンシャルがあるかもしれない、と思って面倒みてくれることですね。だからこそ渡邊さんにお願いしています。

ご主人:今までは調律しかしてくれない調律師だったんですよ。

奥様:「耳が痛い」と言っても対応してくれず、しょうがないからアップライトの裏に自分で布を張ったんですよ。音が大きいから耳が痛いのかなと思って。
ご主人:昔はピアノ人口も多かったし、調律師も調律するだけで時間的にいっぱいいっぱいだったんでしょうけど。

奥様:かつての調律師さんからは「音が大きいから布を張るだけでも違いますよ」、とアドバイスされたのでやっていたんですよね。

ご主人:それで音は確かに小さくなりましたけどね。

奥様:だから「ピアノはそういうものなのかな」と思っていて、様々な技術を施すことで耳に痛くない音を作るということが出来ると思っていませんでした。でも今は「こんなに違うんだ」ということが実感できて、弾いて音を聞いていて幸せです。子供の時からピアノをやっていて、常に当たり前のようにピアノがある生活をしていたけれど、正直音大に行っていた頃はがむしゃらに練習していただけだったし、今みたいに楽しんで弾いてなかったんですよ。多分今が弾いていて一番楽しい。昔の方が若かったから大曲を弾いていて、今はテクニック的にはその当時のようには弾けないけれど、今の方が全然楽しいですね。

渡邉(当社調律師):昔は、「問題のない」ピアノが良いピアノだったんですよね。壊れないというか。だからいい音を作る、いうのは二の次だった。ある先輩調律師が言っていましたが、昔ピアノがたくさん売れていた頃は、一つのマンションで一日に納入調律を6台もやったことがあるそうです。だからそういう時代には「良い音」よりも、とにかく音が出て壊れない、ということが求められていました。

ご主人:出来る限り同じ音、一律に音が出せて壊れない、というのが求められていたんですね。でもだからこそ、これだけピアノが普及した。

Q.将来の夢や目標はありますか?

A.
奥様:出来る限り弾いていたいのと、レパートリーを増やしたいですね。

ご主人:だから渡邊さんには、オオハシピアノのペダルを直してもらいたい(笑)

渡邊(当社調律師):あれを直そうとすると、もう少し製造に近い技術者とタッグ組むことになるでしょうね。下の棒がまず、窓が3つになってしまっているのを、2つのモノを手に入れなくならなきゃなりますから。

Q.初めて私たちと接した時の率直な感想を頂けますか。

A.
奥様:正直、若い人が来たな、と思いました(笑)でも最初に来た時に(ペダル修理で)削ったりして作業してくれたので「あ、すごいな」と思いました。通り一辺倒の調律師じゃないな、と。「直せちゃうんだ、すごい」と思いました。最初は若い子が来たのでちょっと心配でした。最初旦那が電話したんですけど、真帆ちゃんが電話に出て来てくれる日を約束しましたが、もしかしたら(真帆ちゃんが)「男の人一人の家に行くので怖い」と思っちゃったんじゃないかな、と、それを心配しました。

斎藤(当社調律師):その日ペダルを直していたので結構時間がかかってため終わるのが遅くなりましたが、会社に連絡をしていなかったので、渡邉をすごく心配させてしまったんです。仕事が終わって駅についてスマホを確認したら渡邉から着信がいっぱいあって、まずいと思ってすぐ連絡しました。

ご主人:一発目は社長が来るかなと思ったんですよ。ピアノっていうのは社長が見て、その後で社員が来るのかなと思ってました。それからしばらくして、黒鍵を黒檀に変えてもらうか迷って相談した時、わざわざ直接状態を見に来ていただけたことにはすごく驚きました。

奥様:黒鍵修理をどうしようか悩んでいた時に、「今から(現物を)見に行きます」と言ってくれて、あれは嬉しかったです。

渡邉(当社調律師):黒檀は重いので、タッチの重さが変わりますし、どうして黒檀に変えようとお考えなのかを理解しないと、変えなければよかった、なんてことになりかねないので。
今はネット情報が多く、ピアノに興味のある方は私以上にいろいろな事を知ってたりすることがあります。当然黒檀の例もあります。でも、そのピアノとユーザーとの関係がわからないで安易に改造するのは多少ながらリスクがあります。私は奥様のシュベスターを改めてしっかり把握したかったのです。ネットに上がっている技術情報の多くは、こうすればピアノが良くなる、と書いてあったりしますが、我々は、何がどう変わってどういう違いを生んで、どういう効果を生むか、それがいいのか悪いのかを整理把握する必要があると考えています。
因みに、黒檀に変更することに何も問題はなく、交換して期待していた効果が得られ、喜んでいただけました。

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