Pleyel AL アクションの簡単な説明と、修理その①

今回はアクション修理について書きます。

プレイエル社設計、シュワンダーが製作したアクション。(ハンマーとシャンクを交換後に撮影)

アブストラクト機構 横から

 

鍵盤のウィペンがつながっている、アブストラクト方式。

アブストラクト機構 接続部拡大

アブストラクト機構 正面から

 

この1952年製のALは、100年以上前と同じ、ハンマーのセンターピンが各セクションで一本の方式を取っている。(小型の機種では途中変更もあった)

作業前ハンマー  ハンマーフレンジ

プレイエルだけは、モダンピアノになっても、この横につながったタイプを採用し続けているのには、何かしらの訳があるのだと思う。
理屈上、ハンマー軌道は全て同じになる。ただ、現実、これだと、いろいろ問題が出てくる。また、問題が出たときに対処しずらい。

 

作業風景。各項目を診断、測定し、ばらして修理していった。

アクション作業風景

 

ハンマーレールを整えていく。そもそも構造が弱いため、かなり痛んでいた。

レペティションレギュレチングスクリュー磨き

 

ドロップスクリューを磨きながら、レールの痛みに気が付いた。所々ヒビが入っていて、スクリューが緩んでいた。全て外して、接着補強して対応した。
(余裕が無くて作業写真を撮り忘れた)

レペティションレールの破損2

レペティションレールの破損

レギュレチングボタンパンチングクロスの交換

レギュレチングボタンクロスの交換

ダンパーレールのカンナかけ(作業写真無し)

ダンパーガイド 中高音部

 

ジャックのレバーのこすれ直し。センターピンは曲げずに、ジャックのサイドを削って対応した。紙2枚隙間があればなんとかなると思う。本当は真ん中にしたいけど、。

ジャック左右の悪さ

 

ジャックやレバーに黒鉛を塗った後、レペティションレバーカパリングの交換をした。

レペティション受けスキンの交換 Before after

 

これを進めていたのは、2024年8月頃。コロナが明けて、普通の調律仕事も増え、他に待たせてしまっているお客様の仕事も平行して進めていた。
助けてくれた仲間の技術者が多くて、本当に助かった。この文章を書きながら当時を思い出すと、かなり無理をしていたと思いだし、きつい気持ちになってしまった。

次回は、ハンマー交換を書きます。

Pleyel AL 塗装作業

今回は塗装作業について書いていきます。

セラックで塗られていたので、それでいくことにした。またそうするしかなかった。
予算、作業環境、仕上がりなど考慮して、セラックを選ばざるしかなかった。
黒ラッカーも考えたが、作業中に出るシンナー臭で、近隣に迷惑になる。作業者も、工房が狭い為、恐らく中毒になっただろう。

セラックにしたのはオリジナルにこだわった部分も当然ある。
参考にしたのは、本を数書、ネット動画、
更に名古屋の職人さんに電話で質問したりして作業していった。貴重な時間を割いてくださって本当に感謝している。特に黒いセラック作りに関しては、いいヒントをくださった。

リストリーアンティーク
https://www.restoryweb.com/

セラックニスで塗装されていたが、写真のように、高音域は日焼けして、すっかり色も塗料も落ちていた。
ペンで書いたような線は、推測だが、過去に(少なくとも50年前)にオーバーホールされた時に、塗料が抜けた隙間を他の塗料で埋め、、、
周りのセラックはその後抜けていって下地が出てきて茶色になり、後から入れた他の塗料だけが、線のように残ってしまったのだと思う。

塗装 高音側板
下地をペーパーでひたすら研いで整える。

本体研ぎ1

そのあと、黒セラックでタンポ塗りを繰り返ししていく、時間を開けながら50回はやったかも。
塗装は失敗と迷いの連続だった。黒いセラックを自家製で作ったが、どうも混ざり切ってなく、塗り終わった後乾ききれない事が多く、白い曇った仕上がりになってしまったりした。
専門家に聞いたら、日本には黒セラックは無いらしく、黒とセラックを混ぜてからしばらく置いた方がいいと言われた。その通り、完璧ではないけれど、かなりましになった。

側板塗装作業

大屋根。上面の板が剥がれかけていたため、接着剤を流してはクランプしていった。恐らく内部の心材も接着剥がれを起こしていると思ったので、大屋根を立ててエポキシを流したりした。(写真にはない)

突板剥がれの補修4

 
裏面はとりわけひどく、下地をサンダーで研ぎ、そのあとカンナで平を出していった。

大屋根研ぎカンナかけ

 
夕飯を食べた後、裏面を塗って、乾いた日中は表面を塗っていった。
セラックはアルコール系の塗料だが、作業最中に酔っぱらった感じになった。フルコンは大きいと改めて感じた。

大屋根裏塗り開始

 
鍵盤蓋。オリジナルはこんな感じ。全ての外装でそうだが、予算、時間などを考え、下地を完璧に整えず、進めることにした。

外装 鍵盤蓋 内部 正面

 
プレイエルは多くの機種で、鍵盤蓋が親板と擦れてしまう。サイドをカンナやヤスリで2mmは削った。

横ずれ加工 低音

 
塗り終わって、ロゴのマスキングを剥がしていく。

マスキング剥がし

 
剥がし終えたところ。剥がしたマスキングをテーブルに貼ってみた。

マスキング剥がし後

 
前屋根の前框と当たるところはかなりボロボロだった。さすがにこれだけひどいところは、接着剤と木材、パテを使って整えてから塗った。

前屋根の破損

 
仕上げ作業は納入後にも行った。(東大先端研、ENEOSホールにて)

本体塗装仕上げ

 
定期メンテナンス時にも塗り重ねていくつもり。次回はアクション関連について書いていきます。

Pleyel AL 本体の飾りの加工

こんにちは。今回は、外装の飾りの修復についてまとめてみました。

側板の下側を縁取るように、凸部の飾りが張り付けられている。

飾りの剥がれ

本体をひっくり返してみると、過去に、剥がれてしまった形跡があり、誰かがクランプもせずに接着したのか、所々隙間がありひどい状態だった。

飾り剥がし

刃物や、アルコールやアセトンを使って、傷めないように慎重に、全て剥がしていった

何日かかったか忘れたが、剥がし終えた。

飾り剥がし後 全体

どうしても痛めてしまった箇所も多くあり、

飾り剥がし後

表面を綺麗に処理していった。

下地補正

ほとんど腐りかけているような箇所は取り除いた。

飾り加工

剥がした凸部は二枚の板を貼り合わせて作られていた。これらもいい加減に接着されていて、何の薬品を使ってもはがれなかったところは、場所によっては細いノコギリで切り込んで二枚に分けた。
すごいしんどい仕事だった。

飾り二本に分ける作業

下地を完全に整えてから、一本ずつ再び本体に接着し直した。こういうのは一度接着剤無しで試しにやってから、本番素早くやるようにしている。

飾り接着作業

切り取ってしまった箇所は、化粧板で補修した。

飾り接着後 補正

飾りパテ

最後はペーパーなどを使って仕上げていった。

飾り整形

やったことのない作業を、いきなり大きなフルコンでしている。忍耐強く作業した。ホント、きつかった。

次回は塗装について書きます。

Pleyel AL 響板修理

こんにちは。今回は響板修理についてまとめてみました。

フルコンはやはり大きいと痛感しました。

養生をして、響板のニスを剥がしているところ。アルコールを使った。
剥離開始

隅々まで丁寧にはくっていった。

剥離作業

剥離が終わった後、狭い第二工房に移動した。出庫までここから出さないつもり。

響板埋木作業。割れている箇所を専用のトリマーで少し大きめに加工し、出来た溝に合わせて埋木を接着し、カンナで表面を面にした。

埋木溝作り

時には本体に乗って作業した。

埋木作業 上に載って

使った電気工具たち。

使った電気工具

これらの作業から、エアコンをつけっぱなしになった。この写真は7月初め。この時はこの夏がこんなに暑くなるとは思わなかった。

温度湿度管理

全ての埋木作業が終わった後は、隅々まで古いニスや汚れを取る作業をしていった。

低音駒詳細

 

作業風景

 

この作業に興味を持ってくださっていた、先輩の調律師。いろいろ助言もいただいた。作業にも参加してくださった。

掃除

隅々まで

 

最後は手のひらで上面をなんども擦って、小さなごみを取り除いた。

研ぎ終わり

翌日以降にもう一度手のひらで擦った後、一気に刷毛塗りをした。使ったニスはJahnのセラック系のもの。

上塗り

合計3回塗った。

上塗り後

狭い場所でアルコール系のニスを使ったためか、頭がくらくらした。フルコンの大きさをこんなことで実感するとは思わなかった。

次回は外装の飾りの修理について書きます。

Pleyel AL 脚の改造 本体側

こんにちは。前回は、脚そのものの作業を書きました。
今回は、脚の受け側について書いていきます。

接着されていた、脚の根っこを外したところ。

後脚外し後

化粧板がかなり剥がれていたので、ひどいところは新しい化粧板に変えた。

脚本体 化粧板の剥がれ

まずは、剥がして、平らを作り、

脚本体 化粧板を剥がした後

新しい板を接着。化粧板の接着

キャスターを一昔前のダブルキャスターに代えることに決めたが、ピアノの高さが低くなってしまう為、高さ増やさなくてはならない。
過去のピアノのデザインや、強度などを考慮し、本体側にさらに大きな板を付けることにした。写真の白く見えるが新しく加えたブナ材。
脚 スペーサー

受け側を広げ、
棚板の加工

ブナの平を出して、カンナがけ

接着した。接着作業

こうやって、写真を文章だけだと簡単そうに見えてしまうが、えらく悩んでなかなか進まなかった工程だった。
オリジナルにどうしても手を加えなくてはならず、美観を損ねたくないし、安全性は言うまでもなく重要。脚が不安定だと、音もいろいろな面で悪くなる。

そしてかなりの作業がやり直しがきかず、冷や汗を流した時も多々あったが、腹をくくって気合でやり切ったりもした。

新脚

今しっかり立っていて、響板や外装の作業をしている。あとはひたすら前に進んでいくつもり。

次回は響板修理作業を上げます。