HORUGEL 響板製作 3

先日終わった、響板製作について書きます。自分の技術記録として、また今後チャレンジする人の参考記録として、そして今回大変お待たせしてしまっているお客様への報告も兼ねます。ブログ用に気の利いた文章にしていません。またこの半年の記録なので、長文になってしまいました。ご了承ください。

HORUGEL 響板製作 2 の続き

2021年7月~ 設計から製造、古い響板の復活

7月 新しい響板材の加工を終え、クラウン(響板に湾曲を持たせること)を作るための計算開始

8月 響板と響棒を接着し、クラウンを作る為の設備の設計製作開始

9月 クラウン形状の修正と設備の製作と修正

下の写真は、表に基づき製造した治具を所定の位置に並べ上から撮影したもの。このピアノ一台の為に、木材で50個以上、厚さ0.1mm単位で削って作った。きつかった。

クラウン治具 上から

横から撮影 計算に基づき加工したら、ちゃんと湾曲した形になっていてうれしかった。

クラウン治具 横から

仮接着作業をしてみたとき、8月に作った表に重大なミスがあり、15個以上修正しなくてはならないと知ったときは、かなり凹んだ。
これ以外に接着の為の突っ張り棒、接着時響棒を傷つけないための治具を作り、、
1トンもの接着圧に耐えられる設備は、机は16本の脚で支え、天井は工房家屋の梁と突っ張り棒で補強する事にし、天井の電気は取り外すことにした。

10月 響板と響棒の接着(クラウン作り)

接着中の画像 接着の為の突き上げ棒が増えると、設備全体がわずかに歪み、天井がメキメキ音がした。

響板製作風景

接着はうまくいったが、自然放置していたら2週間でクラウンが無くなってしった。(撮影せず倉庫にしまったため画像がない。追々アップする予定) 叩くとよく揺れるが、予想よりも低い音が出る感じになる。これは失敗したかもとかなり凹み途方に暮れる。気を取り直して、乾燥した時期の12月に修正作業をすることと、以前から心に引っ掛かっていた、古い響板の復活の準備もすることにした。

バラバラになった古い響板

接着が取れた古い響板 縮小

ニスを剥がした古い響棒

古い響棒 ニスを剥がした後

11月 古い響板をはぎ合わせするための治具の製作を開始。

12月 新しい響板の復活の為、設備を再度作り実施。並行して古い響板のはぎ合わせを開始 新しい響板の修正作業がうまくいったと思ったが、日に日にゆっくり元に戻ってしまう。そこでやはり、古い響板でも作ってみることにした。

古い響板のはぎ合わせを終え、ニスを剥がしている途中

ニスはがし

ニスを剥がし終え、サンダーで表面を整えた後の響板裏面

古い響板裏面サンダー

響板接着後の裏面(割れの埋木作業中 右下に切り込みがある)

響板裏面 縮小版

響棒のしなり

響板裏面の響棒

響板上面のクラウン(むくり)

高音部のクラウン 縮小版

ほぼ想定通りのクラウンが出来た。ただ乾燥すればクラウンはなくなるし、湿度が増えれば大きくなる。今後は温度湿度を徹底して管理していく。

響板の割れの埋木作業

響板の埋木作業

古い板なので、当然割れがいくつかある。これから埋木していかなくてはならない。

あとがき

下の写真は、2005年にドイツのフランクフルトメッセで、再生された古いベヒシュタインを弾いているところ。(後ろに元の古い響板が少し見える)

2005年メッセ

響板を交換したことを売りにしていた。すごいなと思ったけど、何か大切な味を失っていたのか、どんな音だったのか全く記憶に残っていない。

そもそもこのホルーゲルの修復は、商品にするためではなく、依頼主の為なのだから、いい音になるかどうかより、元の味を残しておく事が大事。
ピアノ修復を進めていく際に、製作当時の雑な仕事がどうしても目立ち始めると、現在の技術でよくしてやったほうがいいのでは、とか余計なことを考えてしまう。ただそのピアノと依頼主の関係を象徴するような箇所は変えてはいけない。今回でいえば、犬にかじられた脚と、この響板がそうなのだと思う。

古い響板を使う事が決まった。まだ時間がかかってしまうことになるけど、自分の気持ちは晴れやか。きっとうまくいくんだと思う。

孝則

YAMAHA U3G フレンジコード交換

工房では、YAMAHA U3Gのフレンジコード交換を行いました。

YAMAHAのフレンジコードは、製造された年代によって、切れやすいことがあります。
フレンジコードはハンマーが打弦後に戻るのを手助けしている、ハンマースプリングを利かせているコードです。スプリングが利いていないと、連打性が悪くなり弾きずらく、音色も少しぼやけた印象になります。
このU3Gは、ほとんどのフレンジコードが切れている状態でした。下の写真ではコードが切れ、スプリングが跳ね上がっているのがわかります。

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全ての古いコードを外していきます。
コードの繊維がボロボロで、引っ張るとちぎれてしまいました。

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コードが収まっている細い溝のところに接着剤が付いた古いコードが残っているので、アルコールで接着剤を柔らかくしてから完全に取り除いていきます。

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綺麗になった溝に、同じ長さに切った新しいコードを押し込むように入れて接着します。古いコードが少しでも残っていると綺麗に接着できません。
接着剤が乾いてから、コードを引っ張っても外れないか確認します。

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ハンマーを元に戻し、新しいコードにスプリングを引っかけて、コード交換は完了です。

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by真帆

ピアノを設置する環境

12月に入り、寒さと乾燥が厳しくなりました。

エアコンを使う機会も増え、肌の乾燥を感じている方も多いのではないでしょうか?

ここ最近は、お客様宅に調律で伺うと、ネジの緩みが目立ちます。
本格的に冬のシーズンに入る前に、今回はピアノにとっての快適な環境について書きます。

乾燥が進むと、木が痩せてしまうため、ピアノのアクションのネジが緩みやすく、雑音の原因になります。木材は、乾燥することにより、ひびが入る可能性もあり、本体の響板が割れることもあります。逆に湿度が高いとピアノ内部の金属(弦やネジなど)のサビが発生したり、木材やフェルトが膨らみ、アクションや鍵盤の動きが悪くなります。

ピアノの快適な環境を保つには、湿温度を可能な限り一定に保つことが大事です。
一般に、室内温度は、15℃~25℃ 湿度は50%前後がよいとされています。
また、お部屋のどこにピアノを設置するかも重要です。置き場所が原因で状態が悪くなってしまったピアノと会うことがよくあります。

例えば、高音側の背面に西日が当たり、高音部の音程だけ不自然に下がってるピアノ。
エアコンの風が直接当たり、乾燥でネジが緩み、演奏するとカタカタ音がするピアノ。
また、水回りや台所がとても近いところ置かれたピアノでは、油汚れや湿気が溜まり、フェルトなどがべとつき、ペダルを踏むとギシギシ雑音がしたり、鍵盤とバランスピンがくっつき鍵盤がなかなか取れなかったこともありました。

しかし、ピアノを置く場所がどうしても限られてしまう方が多いのが現実です。そういう方にはできる範囲で対策することをおすすめしています。
例えば、直射日光が当たるピアノにはカーテンを使ったり、エアコンの風をピアノに直接当てないように調節したり、水回りや台所が近い場合は、必ず鍵盤蓋を閉め、カバーをかけて中には乾燥剤を入れたり。多少の工夫や日々の心掛けで、ピアノの健康状態をより良く保ち続けることができます。

参考にしてみてください。

by真帆

HORUGEL 駒修理

工房では、HORUGELの駒修理を進めています。

短駒は、木材が老けて駒ピン部分に亀裂が入り、ピンが緩く、一部は植えてある角度も違っていたので、トップを新しい木材に変えることにしました。

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駒ピンをすべて抜き、短駒のトップを切りとります。

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土台はピンの穴を埋木して使い(上の写真の右)、トップは新しい木材で作ります。

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次は長駒です。オーバーハング※している部分のトップの裏側を見てみると、無数に穴が開いていました。製造時に穴あけを失敗した跡がそのまま残っていました。

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※オーバーハングとは、低い音ほど弦長が必要なため、響板の端に駒が来てしまうので、なるべく響板の中央に位置させて弦振動を効率よく伝わるようにするものです。

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埋木すべき穴が多すぎて、中音部のトップも交換することにしました。

写真左が新しい駒トップ、中央がオリジナル、右が新しい駒のオーバーハングと土台です。

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予期せぬことが非常に多く、想像以上に手がかかる修理になっています。焦ったらいい結果につながらないので、辛抱強く進めています。

by真帆