Bechstein D 定期メンテナンス

とにかく暑い!という会話が至るところで聞こえてきた今週です。今朝のニュースでは、この土日の暑さを「極暑」という表現を使っていましたが暑さを表現する言葉は多彩ですね。
ほんのわずかな風が心地よいと感じる今日この頃です。

そんな暑い埼玉を今週2日留守にして、会津田島(南会津町田島)へ、ベヒシュタインの定期メンテナンスに行ってきました。ピアノは、御蔵入交流館という複合施設内の文化センターにあります。
ご縁がご縁を呼び、10年ほど前からさいたまピアノ工房が定期メンテナンスをしています。今回は工房スタッフ3人、1泊2日の日程で行いました。

DSC_2401

会津田島に到着した時、開口一番「涼しい!」と感激したほど爽やかな風が吹き空気が澄んでいる天候で、暑さにやられていた私達には願ってもない環境でした。それでも地元の方は「暑いですねー」と真逆のことをおっしゃっていて、なんだかおもしろい会話になりました。
会津田島では明日から三日間、『会津田島祇園祭』というお祭りがあり、毎年この時期になると町の方は準備などで忙しくなるそうです。ちょうどお祭り前だったので、駅ではお祭り音楽が流れていたりと町中がとても活気に溢れていました。

さて、ピアノはベヒシュタイン モデルD コンサートグランドピアノです。

DSC_2404(1)

最初に音を鳴らした時はタッチが少し重く感じましたが、これはピアノ内部で多少の結露が発生したためにアクションの動きがやや鈍くなってしまったものでした。
まずは整調、調律の前にアクションと鍵盤を外して部品の金属磨きと掃除をしました。

DSC_2391

これは毎年行っている作業です。金属部品を触ってみると、かなりべたつきがあり滑りが悪くなっていたので、丁寧に磨いて触り心地がつるつるになるように仕上げました。
下の写真は鍵盤についているキャプスタンボタンという金属部品の磨きです。ボタンの上の面が見た目でもわかるぐらいにくもっていました。写真にはありませんが、鍵盤を収めている金属のピンも磨きました。

KIMG1127

またダンパー(止音をする部品)も全て外して、ダンパーワイヤーという金属部品も同じくべたつきがあったため磨きました。

KIMG1131

この作業後、アクションを一度ピアノに戻して弾いてみると、最初に比べタッチが軽くなっていました。
今年は3人での作業なので、この機会に始めて大屋根を取り外しました。今がチャンスとばかりに大屋根の蝶番磨き・ヒンジのサビ磨き・蝶番のネジ締め、そして大屋根があることで普段は届かない所の掃除を行いました。

DSC_2399

サビや汚れを一掃することができて良かったです!そしてしっかりと状態を確認しながらアクション調整、整音と調律を行いました。

DSC_2394

メンテナンス終了後のピアノは、芯のあるしっかりとした音色と重厚な響きが素晴らしく、ホール全体を包みこんでいました。今後も地元の方に愛されるピアノとなってもらいたいです。担当者様や町の方にも大変お世話になり、とても充実した2日間となりました!

ホルーゲル 解体

今週は、気温がぐんぐん上がり、日中は夏の陽気でした。工房内もかなり暑くなったので、季節的にはまだ早いですが今年初めて冷房をつけました。街を歩いていると、日傘をさす人、帽子を被る人が日を追うごとに増えていて、夏の訪れを感じます。

工房では、先日入荷したホルーゲルの解体をしました。

弦の解体から始め、チューニングピンやその他部品も順に取り外していきました。

DSC_1976

DSC_1981

手が黒くなりながら、テンポ良くどんどん解体が進んでいきました。

場所を移して、大屋根も外しました。大屋根にはしばらくの間、お休みしていてもらいます。

DSC_2129

そして、鉄骨を外す作業に入りました。まずは鉄骨のネジを取るのですが、複数あるネジがどれも全く回らず、ある一本はネジ頭が折れてしまうなどもあり、作業は一時難航しました。しかしネジを取らないことには、鉄骨を外すことが出来ないので、ネジが回りやすくなるような工夫を色々と行いました。その結果ネジが取れ、鉄骨も無事に外すことが出来ました。

DSC_2075

DSC_2078

解体が一段落し、かなりスッキリした本体。解体前とは全然違う景色です。

DSC_2076

これからは本格的に本体修理が始まっていきます!

YAMAHA U1D 調整、納品へ

あっという間に12月も半分が経過しました。そろそろ年末にかけて大掃除が始まる時期ですね。工房も一年の汚れをしっかり落として、新年を迎えたいと思います。

工房ではYAMAHA、モデルU1Dのアクション調整をしました。
修理と外装の磨きも終わり、今度は部品それぞれがスムーズに運動出来るように調整します。

一度アクションを解体してから再び組み上げてからの調整なので、すぐに弾きやすいタッチが得られるわけではなく、調整を重ねていき徐々に造りあげていきます。
わずかな誤差でもタッチに大きく影響することがあります。

DSC_1452

DSC_1433

今回修理したU1Dは、製造から50年以上経過していて、年数経過による部品の劣化や外装の汚れが多く見られました。しかし、しっかり根を張ったような力強い音を持っているピアノでした。ご依頼されたお客様の思い出が詰まったピアノを、元気に復活させたいという思いで作業を進めていきました。アクション修理をしたことでアクションの動きが軽やかになり、音色に柔らかさが加わったように思います。外装は磨くほどにツヤがよみがえり、外装全体が美しく変わっていきました。

さて調整も終わり、出庫の支度が整いました。

DSC_1451

DSC_1447

工房に運ばれた時とは姿がまったく違く、重厚な雰囲気のあるピアノに仕上がりました。ピアノはこれからお客様の元に戻ります。気持ちよく弾いて頂けると嬉しいです。

by志乃

KAWAI KU2 お客様宅納入後の調律

秋の気配が日を追うごとにはっきり感じられるようになりました。
気付くと、セミの大合唱から秋の虫たちのコーラスに変わっています。

先日は修理を終えたKAWAI、アップライト、モデル KU2の納入後の調律に伺いました。
ピアノはリニューアルされたお部屋にピッタリ収まり、椅子も可愛らしくアレンジされていました。

KIMG0540

このピアノは製造されてから50年近く経過していて、元々はご依頼主のお姉さんが弾いていました。
工房に運ばれた時は、鍵盤が剥がれていたり、外装も年月による劣化がありましたが、音を聞くと暖かみがあり期待が持てるピアノでした。

修理をしてピアノ全体が蘇り、弾いていて楽しいピアノに仕上がったと思います。
大がかりな修理でしたので、お客様もどのように変わるのかと思われていたでしょうが、とても喜んでいただいて嬉しく思います。

これからも素敵な音色を響かせてくれることでしょう。

by志乃

エラールの一日。

連日真夏日が続いています。
九州に続き関東も梅雨開け間近のようです。

先日エラールピアノの調律をしに、都内のお客様宅へ伺いました。
この日は偶然にも二台のエラールピアノのご依頼でした。
工房のスタッフ2人がそれぞれのお客様宅へ伺ったのですが、
どちらもエラールピアノなのは珍しいことです。

エラールピアノについて少しご紹介します。
エラールピアノはフランスを代表するピアノメーカーの一つです。
創業者のセバスティアン・エラールが1777年パリで工房を設立しました。
エラールはメカニックに強く、設計や構造の改良を重ねながら
ピアノのレベルを引き上げていきました。
ピアノにおいて様々な発明をして、多くの特許を取りました。
その中でも打鍵の連打を早く正確にできる「ダブルエスケープメント」というアクションの仕組みは、現代のグランドピアノの基礎となっています。

DSC_0031

音色は中高音は澄んでいて、低音はコントラバスのようでオーケストラの響きをも思わせます。

エラールピアノはベートーヴェンやリストなど歴史上の大作曲家にも多大な影響を与えました。

午前中伺ったお客様のエラールピアノは1911年の平行弦で、
午後のお客様のは推定1905年の交差弦のエラールです。
(平行弦は弦がすべて平行に張られています。現在のピアノはほとんどが交差弦で、低音弦が交差しています。)

このピアノを購入したI様はグランドピアノを探していた時、楽器店で
偶然エラールピアノと出会い、とても魅力を感じて購入に至りました。

この日は納入調律で、工房スタッフ全員もご招待していただき、エラールピアノを見学しに行きました。
美しいフォルムと珍しい6本脚のスタイルが目を惹かれます。

DSC_0250

譜面台の裏にも名前のサインらしきものが。
当時の職人さんの息吹を感じます。

DSC_0249

ピアノの大きさはそれほど大きくないですが、ピアノ全体から音が湧き出るような印象がありました。
演奏していても重厚な音色に包まれるような感覚です。
I様も弾くほどにピアノと共鳴していき、電子ピアノからエラールピアノに変わり演奏することがとても楽しいとおっしゃっていました。

今回、平行弦と交差弦のエラールを一日で見る機会を得ることができました。
しかも製造された年代も近く、それぞれの魅力を知りました。
平行弦は一音一音が独立していてクリアに聴こえ、交差弦は音が響きあい幻想的な音色でした。

2台とも美しい音色を奏でていました。

どちらのお客様もエラールピアノを楽しんで弾いていただけると嬉しいです。

by 志乃