ホルーゲル グランドピアノ 入庫

今日は気持ちの良い晴天の日です。昨日あたりから、虫たちが工房に出入りするようになりました。窓にかじりついています。暖かくなった証拠ですね。

工房では、ホルーゲルのグランドピアノを入庫しました。
製造年 推定1955年(昭和30年)1月20日
(資料等ではっきりした製造年は分かりませんでしたが、製造番号55120が日付を表しているだろうと推測しました。)

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先日出庫したベヒシュタインと入れ替わりで工房にやってきましたが、それまでのいきさつを少しお話します。

今年の秋頃に飲食店をオープン予定のM様から、修理の見積り依頼の連絡がありました。M様には、オープンするお店にピアノを2台設置して、演奏を聴きながら食事やお酒を楽しんでほしいという思いがありました。そこでピアノを探していたところ、2台ともM様の知人の方からピアノをご紹介いただき、そのうちの1台がホルーゲルのグランドピアノでした。ピアノはその方の叔母様が弾かれていたものでした。当時はそのピアノでレッスンをされていたそうですが、今はまったく弾かれていませんでした。さっそくピアノの状態を確認しに行きましたが、製造されてから60年以上経っているため、弦のサビ、響板の割れ、アクションパーツの劣化が見られ、本体の支柱は補修をしないとならない箇所もあり、大がかりな修理が予想されました。ただ、ピアノの本体の木材や作業の質は高く、丁寧に設計と製造がされていました。音を鳴らしてみると、音の広がりと暖かみのある音色を感じ、定期的に調律もきされていたのが分かりました。
修復プランをご提案して数日後、M様からお返事がありました。M様、そして持ち主の方からもぜひ修復をして、また弾けるようになってほしいというお言葉でした。
持ち主の方は、「添付文書を拝読しましたが、ピアノに対する愛も感じられて嬉しく思いました。古いピアノをまた弾いてくれる人がいて、また修理にチャレンジしてくれる人がいるのはピアノにとっても、叔母や私にとっても幸せです。」とおっしゃっていただきました。
今回の修復は、幾つか工夫が必要な個所があり、工房にとってチャレンジすべきことがありますが、戦後の量産化が進む前のピアノのポテンシャルの高さを信じて取り組んでいきたいと思います。因みにホルーゲルのグランドピアノは、今現在大変貴重なものと思われ、工房で修復するのは初めてなので、わくわくした気持ちもあります。秋頃の修復終了へ向けて、これから1つ1つ丁寧に作業を進めていきます。

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ベルトーン 出庫

今週は風が強い日がありましたが、この時期はフジやハナミズキなどが美しく咲いている季節ですね。いつも通る道が色鮮やかに変わり、気分も明るくなります。

工房では、ベルトーン、モデルNO50の修復が終わり、お客様宅へ出庫しました。

本体修理とアクション修理後は、アクション整調を行いました。

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このピアノが存分に魅力を発揮できるように、タッチと音色を追求しました。因みに、今回のように棚板を取り外した場合は、一から整調を作り上げていく必要があります。整調が進むと同時に、音もしっかり鳴ってくるのが分かります。そしてベルトーンの修復がすべて終了しました。

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タッチは、修復前の時はとても弾きにくく、指がもたつくような感じがありましたが、修理と整調、調律、整音で改善し、鍵盤が軽快に動くようになりました。音色は、弦交換とハンマー交換を行ったことで、よどみ無く、そして温もりのある音色になりました。外装は、塗面がくもりに覆われていて汚れもかなりありましたが、磨いてツヤが蘇り、暖かみのあるウォルナット色が復活して気品も感じられます。

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このピアノが入庫して試弾した時、だいぶ疲れているような印象があるとブログでも書いたのですが、出庫前に試弾した時は、とても元気になってくれたと思います。まるで、工房で数か月入院して英気を得たかのように感じました。ご依頼されたお客様も、修復してどう変わるのかと楽しみにお待ちくださいました。

これからはお客様の元で、元気に歌い続けてくれることでしょう。

YAMAHA U1 アクションと鍵盤修理

ここ最近は過ごしやすい季節になりました。ピクニックや散歩など、外にいるのが気持ちのいい陽気です。これから来るだろう暑い夏に備えて体力もつけようと思います。

工房では、YAMAHA、モデルU1のアクションと鍵盤の修理をしました。

アクションは、ハンマーファイリング(ハンマー整形)をしました。音色が豊かに、しっかり鳴るように形を整えました。

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ハンマーフェルトを一個ずつヤスリで剥いていきます。何年も手入れをしていない髪をキレイにスッキリしてあげる感じでしょうか。

また、部品が破損しているものがあったのでそれぞれ修理をしました。

ブライドルテープをキレイに掃除して、テープチップ(赤い革)は革がボロボロと劣化していたので新しいものに交換しました。

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機能、見た目共に良くなりました。

フレンジコードという糸状の部品は、ほとんど切れてしまっていたので全て交換しました。

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フレンジコードが切れていると、ハンマーの戻りが悪くなり、連打がしづらくなります。
フレンジコード切れは、ヤマハのアップライトピアノで、ある一定期間に製造されたものに多くみられます。

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鍵盤の方では、白鍵を貼りかえました。
熱を加えて白鍵(アクリル樹脂)を剥がし、新しいものを接着します。

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そして加工を施し、形を整えていきます。慎重に形を逐一確認しながら進めていきます。

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白鍵の修理が終わったらアクション調整をして、いよいよ全体の仕上げになります。
どんどんピアノが良くなっていくのが目に見えて分かるのは楽しいです!

by 志乃

YAMAHA U3 本体修理

4月に入りました。新年度になり、入社式や入学式などで新たなスタートを切る方もいらっしゃると思います。
この季節はとてもフレッシュな心持ちになりますね。

工房では、ヤマハ、モデルU1の修理を進めています。
本体の作業は、まずピアノを寝かせて本体内部の掃除を行いました。

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長年溜まったホコリやゴミを取り除き、とてもスッキリしました。

そして低音弦(巻線)を新しいものに張り替えました。巻線はカシャカシャ、ジーンという雑音が混じった音をしていました。(通称ジン線といいます)
新しい巻線に交換して、音色が豊かに鳴り響くようにします。

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また、鍵盤バランスピンとフロントピンを磨きました。
バランスピンは鍵盤の支点となるピンで、フロントピンは鍵盤手前の位置にあります。ピンがザラついていると鍵盤がスムーズに動かない原因になります。触ってツルツル、見た目ピカピカの状態が好ましいです。
このピアノのピンは、くもりがあり滑らかな触り心地ではありませんでした。工房では毎回、丁寧に1本ずつ磨いていきます。

(バランスピン 左側・磨き前 右側・磨き後)
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磨いた後のピンはやはりキレイです。
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本体の作業が終わりピアノを起こしました。
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張り終えた巻線をはじくと、雑味のない豊かな音色がしました。実際に弾いて音を出すのが楽しみです。次はアクション修理に入ります。

ベヒシュタイン修復終了 お客様宅へ出庫

今週は何と言っても桜開花の話題が多かったですね。さいたまピアノ工房では昨年に続き、近所の公園でお花見を楽しみました。
桜に囲まれながら過ごす時間はやはり最高でした。この時期は、街行く人もどこか微笑んでいるように感じます。

工房では、ベヒシュタイン、モデルKの修復が終わりました。

鍵盤の修理後は、アクションの修理をしました。サポートヒールクロスという部品のクロスが擦り減っていたので、新しいクロスと交換しました。
クロスは二重構造になっています。

(内側の赤いクロスを外側の緑クロスで包んでいるような感じ。写真では緑クロスの片側はまだ接着されていない状態)
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ハンマーは、ハンマー植えこみ寸法と角度の修正と、ファイリング(ハンマー整形)を行いました。今回の修復作業の一番のポイントでした。

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工房にこのピアノが入ってきて試弾した時、今回の修復を依頼してくださった調律師Fさんとそのお客様が、何が気になって、今回このピアノを修理するのだろうと思うほど、良い音色を奏でていました。ただ、しばらく弾いていると、ベヒシュタイン特有のタッチによる音色の変化が乏しく、音の粒立ちも良くないことに気が付きました。

修理前のプランでは、弦の交換が盛り込まれていましたが、状態が比較的よく、新しく替えても良くはならないと思い、困ってしまいました。そこでハンマーに原因があるのではと思い良く見たら、ハンマーフェルトについている弦の跡が、正常なピアノよりも奥についていることに気が付きました。更に計算した結果、明らかに誤りがある事が分かりました。
Fさんと相談した結果、弦交換はせずに当初のプランにはなかった、ハンマーの寸法と角度の修正をすることにしました。

取り付けられていたハンマーは、純正品と思われ、部品メーカーによって加工された寸法だと、恐らく1990年前後に製造されたものにはピッタリ合うのでしょう。
しかしこの1930年のベヒシュタインには合っていませんでした。ベヒシュタインはこの年代から2005年頃までおおきなモデル変更はありませんが、細かな寸法まで全く同じではありません。しっかり測定をし、それに合わせて加工をしなくてはなりません。

工房でハンマー交換をする時は、一台一台のピアノに最適な状態になるように、工房で穴あけを行っています。今回はその経験が生き、修正後、音の発音が改善され、満足した結果が得られました。

その他に、ダンパー関連の修理もし、更にペダル磨きや譜面台のフェルトを新しくするなど、外装も整えました。

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修理を終えてからの最終調整は、Fさんが行いました。夏日のような天気も手伝ってか、工房内はとても熱気にあふれていました。

調整後はアクションと本体の内部を今一度掃除をし、それから全ての状態を確認しました。

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ハンマー植え角度を修正して、Fさんの調整により、修復前よりも音の発音が良くなり、ほがらかに歌うような音色になりました。
鍵盤も修理前の象牙が剥がれかけて浮いていることもなく、指へのストレスも、もうありません。Fさんも満足した仕上がりになりました。

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新しい工房になってから初めての、ベヒシュタインの修復が無事終わりました。

そして、べヒシュタインが出庫してから約一時間後、修復する新たなピアノが工房に到着しました。そのピアノについてはまた来週お知らせします!